ビットコインが過去最高値を更新するなど、暗号資産(仮想通貨)市場は再び活況を呈している。しかし、その華やかなニュースの裏側で、静かに取引の場から姿を消していく銘柄も少なくない。
2025年5月、国内暗号資産取引所であるGMOコインが一挙6種類もの暗号資産について取り扱いを廃止すると発表したことは、その象徴的な出来事だった。
関連記事:GMOコイン、ネムやシンボルなど6種類の暗号資産の取扱い廃止──流動性不足を理由に
特に、日本発の暗号資産として根強いコミュニティを持つモナコイン(MONA)や、かつて国内で広く取引されていたネム(XEM)が含まれていたことは、多くの投資家に驚きをもって受け止められた。
海外の取引所と比較して、日本の取引所が扱う暗号資産の銘柄数は多くない。その中で、なぜ取引所は一定の人気を持つ銘柄ですら、取り扱いを減らすという判断を下すのだろうか。
その背景には、取引所が銘柄を一つ維持するために負担し続けている、外部からは見えにくいコストとリスクが存在する。
大手暗号資産取引所CoincheckでCFO(最高財務責任者)を務める竹ケ原圭吾氏への取材から、その具体的な要因が見えてきた。
まず全ての前提となるのが、業界の自主規制団体であるJVCEA(日本暗号資産等取引業協会)が定める規則への準拠だ。
竹ケ原氏によると、取引所は新規に暗号資産を取り扱う際だけでなく、取り扱い開始後も定期的にその銘柄の健全性や関連プロジェクトの状況などを評価し続ける義務を負う。この過程で懸念が認められれば、取り扱い廃止の検討対象となる。
また、竹ケ原氏は日本の規制について、「海外には実質的な規制がない状態で資金調達を行う発行体も存在し、突然の発行量変更などで価格が大きく変動するリスクがある。日本の規制は、そうした懸念がある銘柄の取り扱いを避けることで、利用者保護に繋がっている側面がある」と述べる。廃止決定時に一定の告知・猶予期間を設けるといった対応も、その一環である。
具体的なコストとして、まず顧客資産を保管するウォレットの管理や、顧客の入出金(送金)を処理し、ブロックチェーンの最新の状態を監視するためのノード運用が挙げられる。
竹ケ原氏は、「お客様からお預かりした暗号資産は基本的にコールドウォレットで保管する一方、利便性のためにホットウォレットも運用する必要があり、そのためには自社でノードを稼働させなければならない。これを外部に委託したとしてもモニタリングは必須で、人的・金銭的なコストは継続的に発生する」と説明する。
さらに、大きな負担となっているのが会計監査費用だという。
「取引所は法律に基づき、監査法人による監査を受ける義務がある。その際、監査法人は財務諸表の正確性を期すため、取り扱う暗号資産ごとに専門家を立て、時には自らノードを運用して検証を行う。その費用は高額で、最終的には取引所の負担となる。取り扱い暗号資産が増えるほど、また、トランザクションが非常に多い暗号資産の場合は特に、この費用負担は大きくなる」
この監査費用は、取り扱い銘柄を維持する上で継続的に発生するコストであり、取引所の経営判断に影響を与える一因となっている。
市場の変動に直接関わるリスクとしては、流動性の問題がある。
特に、利用者が取引所を相手に売買する販売所では、「カバー取引」が重要な役割を担う。これは、顧客からの注文による価格変動リスクをヘッジするため、取引所が他の大手海外取引所などと反対売買を行い、自社のポジションを中立に保つ取引を指す。
[カバー取引の流れ(CoinDesk JAPAN制作)]この仕組みが、上場廃止に繋がるケースがある。
「日本発の暗号資産など、海外市場での流動性が限定的な銘柄は、カバー取引先の確保が難しいという課題がある。また、カバー先である海外の取引所がその銘柄の取り扱いを中止した場合、ヘッジ手段を失うことになり、国内でも追随して廃止を検討せざるを得なくなる。他の取引所の動向が、自社の判断のシグナルとなることもある」
実際に、GMOコインの発表後、SBI VCトレードがモナコインの、ビットトレードがモナコインとネムの取り扱い廃止をそれぞれ発表するなど、連鎖的な動きが見られた。
[SBI VCトレードから][ビットトレードから]販売所で提示する価格もカバー先の価格情報を基に生成されるため、カバー先の喪失は、安定的な価格提示を困難にする要因ともなる。
こうした維持コストに加え、日本では新規銘柄の上場プロセス自体にも時間を要するという課題がある。
国内で既に上場実績のある銘柄は「グリーンリスト制度」や「CASC制度」により手続きが簡素化されたが、海外で取引されていても日本で未上場の銘柄を初めて取り扱うには、JVCEAによる審査が必要となるのが現状だ。
竹ケ原氏は、上場前の情報管理の重要性にも触れ、インサイダー取引防止の観点から、上場計画に関する情報公開は極めて慎重に行わなければならないと指摘する。
以上のことから、暗号資産取引所が上場廃止を決定する背景には、取引量の多寡といった表面的な理由だけでなく、規制対応、システム運用、流動性リスク、会計監査費用といった複合的な要因が存在する。
活況の市場の裏でひっそりと姿を消していく銘柄。そこには、その銘柄を応援してきたファンや投資家が確かにいる。
時に非情にも見える上場廃止という判断の裏には、本記事で詳述したような取引所側のやむを得ない事情がある。この記事が、その複雑な背景を理解するための一助となれば幸いである。
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強気相場なのになぜ? 人気の暗号資産も消える「上場廃止」の裏側──コインチェックCFOが語る“見えないコスト” | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)
ビットコインが過去最高値を更新するなど、暗号資産(仮想通貨)市場は再び活況を呈している。しかし、その華やかなニュースの裏側で、静かに取引の場から姿を消していく銘柄も少なくない。
2025年5月、国内暗号資産取引所であるGMOコインが一挙6種類もの暗号資産について取り扱いを廃止すると発表したことは、その象徴的な出来事だった。
特に、日本発の暗号資産として根強いコミュニティを持つモナコイン(MONA)や、かつて国内で広く取引されていたネム(XEM)が含まれていたことは、多くの投資家に驚きをもって受け止められた。
海外の取引所と比較して、日本の取引所が扱う暗号資産の銘柄数は多くない。その中で、なぜ取引所は一定の人気を持つ銘柄ですら、取り扱いを減らすという判断を下すのだろうか。
その背景には、取引所が銘柄を一つ維持するために負担し続けている、外部からは見えにくいコストとリスクが存在する。
大手暗号資産取引所CoincheckでCFO(最高財務責任者)を務める竹ケ原圭吾氏への取材から、その具体的な要因が見えてきた。
JVCEA規則に準拠
まず全ての前提となるのが、業界の自主規制団体であるJVCEA(日本暗号資産等取引業協会)が定める規則への準拠だ。
竹ケ原氏によると、取引所は新規に暗号資産を取り扱う際だけでなく、取り扱い開始後も定期的にその銘柄の健全性や関連プロジェクトの状況などを評価し続ける義務を負う。この過程で懸念が認められれば、取り扱い廃止の検討対象となる。
また、竹ケ原氏は日本の規制について、「海外には実質的な規制がない状態で資金調達を行う発行体も存在し、突然の発行量変更などで価格が大きく変動するリスクがある。日本の規制は、そうした懸念がある銘柄の取り扱いを避けることで、利用者保護に繋がっている側面がある」と述べる。廃止決定時に一定の告知・猶予期間を設けるといった対応も、その一環である。
技術的コストと監査費用
具体的なコストとして、まず顧客資産を保管するウォレットの管理や、顧客の入出金(送金)を処理し、ブロックチェーンの最新の状態を監視するためのノード運用が挙げられる。
竹ケ原氏は、「お客様からお預かりした暗号資産は基本的にコールドウォレットで保管する一方、利便性のためにホットウォレットも運用する必要があり、そのためには自社でノードを稼働させなければならない。これを外部に委託したとしてもモニタリングは必須で、人的・金銭的なコストは継続的に発生する」と説明する。
さらに、大きな負担となっているのが会計監査費用だという。
「取引所は法律に基づき、監査法人による監査を受ける義務がある。その際、監査法人は財務諸表の正確性を期すため、取り扱う暗号資産ごとに専門家を立て、時には自らノードを運用して検証を行う。その費用は高額で、最終的には取引所の負担となる。取り扱い暗号資産が増えるほど、また、トランザクションが非常に多い暗号資産の場合は特に、この費用負担は大きくなる」
この監査費用は、取り扱い銘柄を維持する上で継続的に発生するコストであり、取引所の経営判断に影響を与える一因となっている。
流動性リスク
市場の変動に直接関わるリスクとしては、流動性の問題がある。
特に、利用者が取引所を相手に売買する販売所では、「カバー取引」が重要な役割を担う。これは、顧客からの注文による価格変動リスクをヘッジするため、取引所が他の大手海外取引所などと反対売買を行い、自社のポジションを中立に保つ取引を指す。
「日本発の暗号資産など、海外市場での流動性が限定的な銘柄は、カバー取引先の確保が難しいという課題がある。また、カバー先である海外の取引所がその銘柄の取り扱いを中止した場合、ヘッジ手段を失うことになり、国内でも追随して廃止を検討せざるを得なくなる。他の取引所の動向が、自社の判断のシグナルとなることもある」
実際に、GMOコインの発表後、SBI VCトレードがモナコインの、ビットトレードがモナコインとネムの取り扱い廃止をそれぞれ発表するなど、連鎖的な動きが見られた。
新規上場にも課題
こうした維持コストに加え、日本では新規銘柄の上場プロセス自体にも時間を要するという課題がある。
国内で既に上場実績のある銘柄は「グリーンリスト制度」や「CASC制度」により手続きが簡素化されたが、海外で取引されていても日本で未上場の銘柄を初めて取り扱うには、JVCEAによる審査が必要となるのが現状だ。
竹ケ原氏は、上場前の情報管理の重要性にも触れ、インサイダー取引防止の観点から、上場計画に関する情報公開は極めて慎重に行わなければならないと指摘する。
以上のことから、暗号資産取引所が上場廃止を決定する背景には、取引量の多寡といった表面的な理由だけでなく、規制対応、システム運用、流動性リスク、会計監査費用といった複合的な要因が存在する。
活況の市場の裏でひっそりと姿を消していく銘柄。そこには、その銘柄を応援してきたファンや投資家が確かにいる。
時に非情にも見える上場廃止という判断の裏には、本記事で詳述したような取引所側のやむを得ない事情がある。この記事が、その複雑な背景を理解するための一助となれば幸いである。